• 第44回(令和8年度)

    大阪科学賞(OSAKA SCIENCE PRIZE)受賞者の横顔

    山本 雅裕(やまもと まさひろ) 47歳

    現職: 大阪大学 微生物病研究所/免疫学フロンティア研究センター 教授  

        https://immpara.biken.osaka-u.ac.jp/

    略歴:

    2001年3月 東京大学理学部生物学科動物学コース 卒業

    2003年3月 大阪大学大学院医学系研究科医科学修士課程 修了

    2006年3月 大阪大学大学院医学系研究科博士課程 修了

    2006年4月 日本学術振興会 特別研究員(PD)

    2006年8月 大阪大学大学院医学系研究科 助教

    2011年5月 大阪大学大学院医学系研究科 准教授

    2012年1月 大阪大学微生物病研究所 独立准教授

    2013年7月 大阪大学微生物病研究所 教授
            大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授(兼任)

    2018年12月 大阪大学 栄誉教授

  • 研究業績:病原体とがんと免疫系間の相互作用の研究およびその革新的解析技術の開発

     私たちの体を守る免疫は、ウイルスや細菌、寄生虫などの「病原体」に感染した細胞だけでなく、体の中で突然変異してできてしまった「がん細胞」も、同じように敵として攻撃します。まず感染症の研究では、宿主の細胞に感染した寄生虫トキソプラズマを、宿主の免疫系がIFN-γを使って感染細胞の中で破壊することを見つけました。

     さらに、トキソプラズマがIFN-γ依存的な免疫を抑制して病気を起こすために必要な病原性因子を、生きたマウスの中でゲノム編集技術CRISPRを使って一気に調べられる新しい方法(生体内CRISPRスクリーニング法)をつくりました。

     また本研究で、寄生虫トキソプラズマによる感染症の研究をしている中で、この「敵を見分けるしくみ」が、感染症とがんで共通していることに気づきました。特にがんの周囲には、免疫にブレーキをかけて攻撃を止めてしまう「Th1型制御性T細胞(Th1型Treg)」という細胞がいることを、自分で開発した特別なマウスであるVeDTRマウスを使って見つけました。

     さらに、このブレーキをかける重要な物質であるPF4も突き止めました。がんの治療薬には免疫チェックポイント阻害剤のような免疫のブレーキを外すものがありますが、自己免疫という副作用が出てしまうことがあります。PF4のはたらきだけを止めれば、そうした副作用を起こさずに、がんへの攻撃力だけを高められることがわかってきました。

     この発見は、副作用の少ない新しいがんの治療法につながると期待されています。

  • 用 語 集

    トキソプラズマ
     ネコ科動物を終宿主とする細胞内寄生性の寄生虫(原虫)で、ヒトを含むほぼすべての恒温動物に感染します。通常は無症状ですが、免疫力が低下した人や胎児が感染すると命にかかわる重い症状を引き起こすことがあります。宿主の細胞の中に入り込んで増殖するため、これを防ぐには感染細胞の内部にいる寄生虫を直接攻撃する仕組みが必要になります。

    IFN-γ(インターフェロンガンマ)

     免疫細胞が病原体や異常な細胞を感知した際に放出する情報伝達物質(サイトカイン)の一つです。周囲の細胞に防御態勢の強化を伝え、病原体を攻撃するタンパク質群の産生を誘導します。感染症だけでなく、がんに対する免疫応答でも中心的な役割を果たします。

    生体内CRISPRスクリーニング法

     ゲノム編集技術CRISPRを用い、病原体が持つ数百種類の遺伝子を一つずつ働かなくした変異体の集団をつくり、生きたマウスの体内で育てることで、病原性に本当に重要な遺伝子だけを一度に絞り込む手法です。従来は1つの遺伝子を調べるのに数か月を要していましたが、この方法により多数の候補を同時に、短期間で解析できるようになりました。

    VeDTRマウス

     2つの遺伝子の組み合わせによって特定の細胞集団だけを目印(標識)し、任意のタイミングで体内から選択的に除去できる、独自に開発したマウス技術です。「その細胞が体の中で実際に何をしているのか」を直接確かめることができます。

    御性T細胞(Treg)とTh1型Treg

     Tregは免疫の働きすぎにブレーキをかけ、自己免疫疾患を防ぐ免疫細胞です。2025年のノーベル生理学・医学賞は、この細胞を発見した坂口志文氏(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任教授)らに贈られました。Tregにはいくつかのタイプがあり、その中の「Th1型Treg」はがんの周囲に集まり、抗腫瘍免疫にブレーキをかけていることが分かりました。

    PF4(血小板第4因子)

     本来は血小板から放出され血液凝固に関わることで知られる物質ですが、がん組織のマクロファージからも放出され、Th1型Tregを誘導する「命令分子」としての新たな役割が明らかになりました。

    免疫チェックポイント阻害薬

     がん細胞が免疫にかけている「ブレーキ」を解除し、免疫ががんを攻撃する力を取り戻させる薬剤です(オプジーボなど)。有効な治療法ですが、免疫全体を活性化するため、自己免疫疾患を副作用として引き起こすことがあります。