
第44回(令和8年度)
大阪科学賞(OSAKA SCIENCE PRIZE)受賞者の横顔
飯田 琢也(いいだ たくや) 48歳
現職: 大阪公立大学 理学研究科物理学専攻 教授
共創研究機構LAC-SYS研究所 所長
略歴:
2003年4月 日本学術振興会特別研究員(大阪大学)
2004年9月 大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程短縮終了
2004年9月 大阪大学 博士(理学)取得
2005年4月 科学技術振興機構 CREST 研究員(大阪府立大学)
2007年4月 大阪府立大学工学研究科 助教
2007年10月 科学技術振興機構 さきがけ研究者(兼務)
2009年4月 大阪府立大学ナノ科学・材料研究センター テニュア・トラック講師(PI)
2014年4月 大阪府立大学大学院理学系研究科 准教授(PI)[文部科学省専門委員(兼務)]
2017年5月 大阪府立大学 研究推進機構 LAC-SYS 研究所 所長(兼務)
2020年4月 大阪府立大学大学院理学系研究科 教授(PI)
2022年4月-現在 大阪公立大学大学院理学研究科 教授(PI)
2022年4月 大阪公立大学 研究推進機構 LAC-SYS 研究所 所長(兼務)
2026年4月-現在 大阪公立大学 共創研究機構 LAC-SYS 研究所 所長(兼務)

研究業績:分子認識の光誘導加速の先駆的研究
ミクロな世界では光の力(光誘起力)で物体を動かすことができます。また、ナノサイズに加工した金属に光を当てると効率良く熱を発生(光熱効果)することができ、液体中の狙った場所で流れを発生できます。私たちは、このような光誘起力や、光熱効果による流れを利用して微小な物質を集めることができる「光濃縮」によって生体分子の反応を加速する仕組みを明らかにしました。
光誘起力はミクロな原子の運動制御や、マイクロメートル以上の大きさの細胞などマクロな物体を一つ一つ精密操作できる光ピンセットなどの研究に用いられてきました。しかしながら、中間領域にある生体分子などのナノ物質も含む系統的な理論は20世紀末にはなかったため、物質のスケールを超えて適用できる光誘起力の統一的理論を構築しました。
この理論に加えて、光誘起力と光熱効果の両方を用いて生体分子を光濃縮する実験にも挑戦しました。特に、レーザー光を数分間照射するだけで数万個の細胞を集められるようになり、生命機能の根幹に関わるDNAやタンパク質などの生体分子の選択的な反応である「分子認識」を光で加速できるようになりました。
私たちは、この仕組みを用いて「光誘導加速システム(LAC-SYS)」と呼ばれる装置を開発し、液体中のDNAやタンパク質、細胞から分泌されるナノ粒子を従来技術よりも高感度・迅速・簡便に計測できることを実証し、血液中の大腸がんのマーカータンパク質を基準値の1000分の1の低濃度でも5分間のレーザー照射で計測できることを明らかにしました。
本研究は物理・化学・生物学・医学の分野を超えた取り組みであり、がんや認知症、感染症など様々な病気の医療検査や創薬、食品検査や環境計測など幅広い社会的課題にイノベーションを与えるものと期待されます。
用 語 集
光誘起力
光が物質に及ぼす電磁気学的な力のことを指します。光誘起力の成分のうち、光子の運動量によりはたらく力(散逸力)に由来する圧力を「光圧」と呼ぶこともあります。直進するレーザー光を物質に照射すれば、光圧により押す力を与えることができます。また、レンズでレーザー光を強く絞ると光強度の強いスポット付近に物質を捕捉することができます。後者の現象を用いた技術を「光ピンセット」と呼び、開発者のArthur Ashkin博士に2018年ノーベル物理学賞が授与されました。
光熱効果
物質が光を吸収した際に局所的に発生する熱のことを指します。レーザーを金属ナノ構造に照射することで発生した光熱効果を利用して対流を引き起こし、液中の微小物質(マイクロ物質やナノ物質など)を照射点近傍に集めることができます。近年では、集光レーザー照射下での局所的な光発熱効果により発生した対流やバブルなどの流体現象を利用して、対象とする微小物質を遠隔的に集合させる研究が盛んに行われています。
分子認識
水素結合、金属配位相互作用、疎水性力、分子間力、π-π相互作用、ハロゲン結合、静電気力、ファン・デル・ワールス力などの非共有結合的な比較的弱い相互作用によって、ホスト分子(プローブ粒子表面のDNAや抗体に相当)およびゲスト分子(標的DNAやタンパク質に相当)が選択的(特異的)に結合する機構を指します。「鍵と鍵穴モデル」で例えられる場合もあり、本研究で対象とした抗原-抗体反応や、DNAやRNAなど核酸の二重らせん形成などが例として挙げられます。
光誘導加速
主にレーザー光を、分子認識を示す分子を修飾した微粒子や基板に照射して光誘起力や光熱効果による対流を発生させて、対象となる生体関連物質を濃縮し、生体分子間の衝突確率を飛躍的に高めて反応を加速する仕組みのことを指します。
大阪科学賞 運営委員会事務局

